病院や介護施設の脱マスク&正常化は進むのか
海外に比べても異質な日本のマスク社会。その中でもとりわけ全員マスク、常時マスクの印象が強いのは、医療業界や介護業界ではないでしょうか。仕事柄マスク着用が義務付けられていて、もし施設内で感染者が出ると責任を問われる、だからマスクをずっと着け続けている。仕方ないという意見もありますが、コロナ以前はいくらインフルエンザや他の感染症が流行ろうとも、手術室など特定のエリアを除いて、病院内でも素顔が当たり前でした…。
「一番最後までマスクを外せない」
そんな声も聞かれる医療・介護業界ですが、ここにきて大きく動きが見られます。
広まる常時マスクの終了、着用の任意化へ
院内でのマスク着用義務を取りやめるところが増えています。下記リストはその一部ですが、夏を過ぎてから方針を変えた病院が少なくないようです。来院者のマスクが任意のケース、病院スタッフも任意のケース、入院病棟などの例外を設けているケースなど様々ですが、何事も横並びな日本社会、周りの病院が素顔回帰したという情報が伝わることで、今後さらに他の病院も続くことが期待されます。
静岡市立静岡病院:2024年1月19日付、全ての人にマスクの着用を求めず
※「常時マスクを着用することで、新型コロナウイルス感染症の発生を抑える効果は認められない」と明記
鎌ヶ谷総合病院:2024年4月1日より院内のマスク着用は任意
済生会熊本病院:2024年5月20日よりマスク着用を任意に(スタッフは着用)
国立成育医療センター:2024年5月23日より患者・家族のマスク無しでの来院可
医療法人水明会 佐潟公園病院:2024年6月3日より病院内のマスク着用を任意に
新千歳クリニック:2024年7月1日より職員は基本マスクを外して対応
※マスク着用による集中力低下、細菌やウイルスの温床になること、コミュニケーションの円滑化など
医療法人寿会 永山病院:2024年7月25日付、熱中症の予防としてマスクはしないで下さい!
埼玉医科大学国際医療センター:2024年8月26日より病院内の常時マスク着用を終了
寿徳堂 秋和鍼灸整骨院:2024年9月16日より病院スタッフのマスクを任意に
東京都済生会向島病院:2024年9月17日からマスク着用ルールの緩和
白十字リハビリテーション病院:2024年9月17日、入院患者と職員のマスクを外す試み
読売クリニック:2024年10月からマスク着用は個人の判断
北海道立子ども総合医療・療育センター:2024年10月1日からマスクの常時着用を終了
北里大学病院:2024年10月1日からマスクの常時着用のお願いを終了
静岡済生会総合病院:2024年10月15日から来院時のマスク着用は任意
東京衛生アドベンチスト病院:2024年10月21日から原則としてマスク着用は任意(例外あり)
なぜ方針転換が始まったのか? 考えられる3つの理由
猛暑の夏が終わって秋冬を迎えるタイミングで、なぜマスク着用基準を緩和する病院が増えたのか。建前としては「新型コロナの感染が落ち着いた」という理由を掲げているところが多いようです。あわせて世間の素顔回帰が進んだことも大きいでしょう。街を歩けばマスクをしていない人のほうがずっと多く、店舗や公共交通などでも素顔のスタッフが増えてきました。
病院だけいつまで? 介護施設だけいつまで? そんな声が利用者から、あるいは勤務者の間から上がってくるのは当然のことではないかと思います。
次にメディアの影響。こちらのページでも話題にあげましたが、病院を舞台にした夏のテレビドラマ『新宿野戦病院』にて、主人公が「明らかにマスク不要!」と叫ぶ場面など、過剰な感染対策を風刺し批判する内容が2話にわたって描かれました。
週刊誌にも記事が掲載されました。小学館発行の『女性セブン』10月17日号と24・31日号の2号にわたり、病院の面会制限やマスク強要の問題が取り上げられました。患者にとっての人権侵害にあたる懸念や、マスクによる息苦しさ、顔が見えないことによる認知症への悪影響などを指摘しています。
<参考記事>
《アフターコロナの真実》病院・介護施設で続く【マスク着用義務】「行きすぎた感染対策によって生活から大切なものが失われた」スタッフや利用者に着用を求めない介護施設の取り組み(女性セブンプラス)
もう1つ考えられるのは、現場の医師が海外との乖離に気づいたこと。コロナの5類移行に伴う水際対策の解除から1年以上、昨年のうちはまだ海外出張が制限され、今年になってようやく解禁されたところもあると聞きます。
欧米諸国で開催される国際会議に参加したり、病院を視察するような機会があれば、日本の現状がいかにズレているか一目瞭然です。元来医師は優秀な人が多いのですから、いつまでも日本だけがマスク信仰を続ける異常さが、分からないはずはありません。
病院/介護施設の素顔回帰で、高齢者層のマスク依存解消へ
病院や介護施設のマスク強制が緩和され、正常化が進めば、主たる利用者である高齢者層のマスク依存も解消していくことが期待されます。マスクを常時着けている人の割合は、10~20代の若者で2割台なのに対して、60代になると4割台(参考:LINEリサーチ)。病院が全員マスクである状態が続いていることと、高齢者のマスク着用率の高さには少なからず相関があるでしょう。
子供のマスクが成長面で心配されるように、高齢者のメンタルヘルスにとっても、相手の顔が見えるかどうかは重大なはず。お互い笑顔の見える生活と、顔を隠し続ける生活、はたしてどちらが健康的で楽しい老後なのか。まっとうな判断と選択が広がっていくことを強く望みます。
(2024年10月24日 木舟周作)